ショパンの指先
私はボーっと前を向きながら、今日コンサートに来てしまったことを後悔していた。
こんなにも心が揺さぶられるとは思わなかった。あんなに固く決心して、洵を遠くから見守っていこうと思っていたのに、ここにいることを洵に気付いてほしいと願ってしまった。例え一瞬でも、そんな浮ついた欲望が芽生えてしまったことに自己嫌悪する。
私が来ていると知った所で、どうなるというのだ。私はその後の何かを期待しているのか。自分から、手放したくせに。もう一度手を差し伸べてほしいと思うなんて、欲深すぎる。
……まだまだだな。私はコーヒーを全て飲み切り溜息を吐いた。洵と別れた一年間で成長したと思っていたけれど、驕っていたようだ。明日からまた、気合いを入れてアマービレで働かないと。
「そろそろ行く?」
優馬に声を掛けられて、私は微笑み頷いた。紙コップをくしゃっと丸める。洵への恋心を押し潰すように。
後半戦の幕が上がる。それと同時にピアノの演奏が静かに鳴り響いた。
ピアノソナタ第二番『葬送』
この曲は誰もが一度は聞いたことがあるだろう『葬送行進曲』を第三楽章に持つ曲で、一般的には『葬送』と呼ぶよりも『葬送行進曲』と呼ばれることの方が多い。使われる箇所も第三楽章が最も多いので、『葬送行進曲』が実は第4楽章まである長い曲であるということを一般人で知る者は少ない。
第三楽章は非常に重たく不気味で陰鬱なおどろおどろしい曲調だが、第一楽章から第四楽章まで通して聴くと、一つの物語性を感じさせる抒情性のある作品なのである。
こんなにも心が揺さぶられるとは思わなかった。あんなに固く決心して、洵を遠くから見守っていこうと思っていたのに、ここにいることを洵に気付いてほしいと願ってしまった。例え一瞬でも、そんな浮ついた欲望が芽生えてしまったことに自己嫌悪する。
私が来ていると知った所で、どうなるというのだ。私はその後の何かを期待しているのか。自分から、手放したくせに。もう一度手を差し伸べてほしいと思うなんて、欲深すぎる。
……まだまだだな。私はコーヒーを全て飲み切り溜息を吐いた。洵と別れた一年間で成長したと思っていたけれど、驕っていたようだ。明日からまた、気合いを入れてアマービレで働かないと。
「そろそろ行く?」
優馬に声を掛けられて、私は微笑み頷いた。紙コップをくしゃっと丸める。洵への恋心を押し潰すように。
後半戦の幕が上がる。それと同時にピアノの演奏が静かに鳴り響いた。
ピアノソナタ第二番『葬送』
この曲は誰もが一度は聞いたことがあるだろう『葬送行進曲』を第三楽章に持つ曲で、一般的には『葬送』と呼ぶよりも『葬送行進曲』と呼ばれることの方が多い。使われる箇所も第三楽章が最も多いので、『葬送行進曲』が実は第4楽章まである長い曲であるということを一般人で知る者は少ない。
第三楽章は非常に重たく不気味で陰鬱なおどろおどろしい曲調だが、第一楽章から第四楽章まで通して聴くと、一つの物語性を感じさせる抒情性のある作品なのである。