ショパンの指先
圧巻の演奏が幕を閉じた。今日の演奏の中で一番の出来だったと誰もが認める最高の演奏だった。鳴り止まない拍手。観客は総立ちのスタンディングオベーションで最大限の賛辞を送った。
私一人だけが、ぽつんと席に座っていた。立ち上がることができなかった。大きな拍手の音に紛れ込ませて嗚咽した。両手で口を押さえても、泣き声を抑えることはできなかった。身体を震わせ泣きながら言葉にならないしゃくり声を上げる。号泣だった。もう止めることができなかった。
鳴り止まない拍手。会場は異様な盛り上がりを見せていた。すでに洵は舞台をはけており、檀上にはピアノが一台置いてあるだけなのだが、観客はずっと拍手を送り続けていた。そして観客たちの熱い拍手はいつしかアンコールの拍手へと変化していき、洵がもう一度舞台に上がるのを心待ちにする空気が一体感を生んでいた。
その中で私だけが浮いていた。コンサートホール内はまだ暗くされていたので、私だけが立たずに泣いているのを気に掛ける人はいなかった。それよりも皆興奮した様子でステージに拍手を送っていた。
響き渡るアンコール拍手に応えるように、舞台袖から再び洵が登場すると、会場内は更に大きく盛り上がった。大きく深呼吸をして涙を抑える。もう一度、洵は演奏する。それまでに涙を止めて呼吸を整えておかなくては。私は何度も深呼吸を繰り返して荒ぶる胸の内を抑え込んだ。
洵は感謝の気持ちを込めて、長い間観客席に向かってお辞儀をしていた。頭を上げ、再びピアノの椅子に座ると、総立ちしていた観客たちも席に座った。
「大丈夫?」
席についた優馬が心配そうに声を掛ける。私はなんとか涙を抑えることに成功して、か細く微笑んだ。
私一人だけが、ぽつんと席に座っていた。立ち上がることができなかった。大きな拍手の音に紛れ込ませて嗚咽した。両手で口を押さえても、泣き声を抑えることはできなかった。身体を震わせ泣きながら言葉にならないしゃくり声を上げる。号泣だった。もう止めることができなかった。
鳴り止まない拍手。会場は異様な盛り上がりを見せていた。すでに洵は舞台をはけており、檀上にはピアノが一台置いてあるだけなのだが、観客はずっと拍手を送り続けていた。そして観客たちの熱い拍手はいつしかアンコールの拍手へと変化していき、洵がもう一度舞台に上がるのを心待ちにする空気が一体感を生んでいた。
その中で私だけが浮いていた。コンサートホール内はまだ暗くされていたので、私だけが立たずに泣いているのを気に掛ける人はいなかった。それよりも皆興奮した様子でステージに拍手を送っていた。
響き渡るアンコール拍手に応えるように、舞台袖から再び洵が登場すると、会場内は更に大きく盛り上がった。大きく深呼吸をして涙を抑える。もう一度、洵は演奏する。それまでに涙を止めて呼吸を整えておかなくては。私は何度も深呼吸を繰り返して荒ぶる胸の内を抑え込んだ。
洵は感謝の気持ちを込めて、長い間観客席に向かってお辞儀をしていた。頭を上げ、再びピアノの椅子に座ると、総立ちしていた観客たちも席に座った。
「大丈夫?」
席についた優馬が心配そうに声を掛ける。私はなんとか涙を抑えることに成功して、か細く微笑んだ。