ショパンの指先
洵は椅子に座ったまま、しばらく考え込むようにマイクを見つめ黙っていた。何を考えているのか。どうやら緊張しているように見えた。会場内もシン、となり、洵の言葉を待つ。そして洵は、ゆっくりと話し始めた。
「ジョンレノンとオノヨーコの出会いを皆さんは知っているでしょうか。とても有名な話なので、知っている人も多いと思いますが、知らない方のために少しだけ説明させてください」
ジョンレノン? 突然洵が話し始めた内容に、私を含め観客たちは皆きょとんとした表情になった。けれど、洵が何か目的があってその話をしているというのは伝わってきたので、観客たちは静かに洵の話を聞き続けた。
「二人の出会いは、ジョンレノンがオノヨーコの個展のオープニング前日にギャラリーを訪れたことから全ては始まります。知人にオノヨーコを紹介され作品を見ていた彼は、彼女の思想を垣間見る、ある作品に出合います。それは、梯子を登って天井から吊るされた虫眼鏡で天井に書かれた文字を見るという作品です。天井に書かれてあった文字は「YES」。その作品を見て感銘を受けたジョンは、どんどん彼女に惹かれていくのです。俺はこの話を聞いた時、たったそれだけのことで強烈に惹かれていくなんて考えられないと思いました。そんなロマンチックな話、自分には縁がないと思っていましたし、憧れの気持ちも、特には湧きませんでした。でも俺は……出会ってしまったのです。彼女の絵を見た瞬間から、いや、彼女が周りを気にせずに無我夢中で絵を描く姿を見た時から、説明できないほど強く、そう、まるで金属が磁石に引き付けられるように彼女に惹かれていきました。どんなに抗おうとしても、諦めようとしても、心と身体が彼女を求めます。俺には、彼女が必要なのです。だから、振られたけれど、もう一度告白しようと思います」
会場内がざわめき出す。イケメンピアニストの予期せぬ愛の告白に、観客たちは異様な盛り上がりを見せた。
「杏樹」
洵が私の名前を呼んだ。その響きに電流が走ったかのように身体中が震える。
「俺と一緒に歩こう」
「ジョンレノンとオノヨーコの出会いを皆さんは知っているでしょうか。とても有名な話なので、知っている人も多いと思いますが、知らない方のために少しだけ説明させてください」
ジョンレノン? 突然洵が話し始めた内容に、私を含め観客たちは皆きょとんとした表情になった。けれど、洵が何か目的があってその話をしているというのは伝わってきたので、観客たちは静かに洵の話を聞き続けた。
「二人の出会いは、ジョンレノンがオノヨーコの個展のオープニング前日にギャラリーを訪れたことから全ては始まります。知人にオノヨーコを紹介され作品を見ていた彼は、彼女の思想を垣間見る、ある作品に出合います。それは、梯子を登って天井から吊るされた虫眼鏡で天井に書かれた文字を見るという作品です。天井に書かれてあった文字は「YES」。その作品を見て感銘を受けたジョンは、どんどん彼女に惹かれていくのです。俺はこの話を聞いた時、たったそれだけのことで強烈に惹かれていくなんて考えられないと思いました。そんなロマンチックな話、自分には縁がないと思っていましたし、憧れの気持ちも、特には湧きませんでした。でも俺は……出会ってしまったのです。彼女の絵を見た瞬間から、いや、彼女が周りを気にせずに無我夢中で絵を描く姿を見た時から、説明できないほど強く、そう、まるで金属が磁石に引き付けられるように彼女に惹かれていきました。どんなに抗おうとしても、諦めようとしても、心と身体が彼女を求めます。俺には、彼女が必要なのです。だから、振られたけれど、もう一度告白しようと思います」
会場内がざわめき出す。イケメンピアニストの予期せぬ愛の告白に、観客たちは異様な盛り上がりを見せた。
「杏樹」
洵が私の名前を呼んだ。その響きに電流が走ったかのように身体中が震える。
「俺と一緒に歩こう」