ショパンの指先
大勢の観客の中から、洵は真っ直ぐに私だけを見つめ微笑んだ。目と目が合い、私は周りが真っ白になって、私と洵しかこの大きなコンサートホール内に存在しないような錯覚を覚えた。
洵はピアノを演奏し始めた。曲目は『ノクターン第20番』
洵と最後に会った日に、洵が弾いていた曲だ。切なく情感豊かで、とても甘い曲だ。
この曲は、洵の容姿によく似合う。色っぽく官能的で、整った横顔と長い手足が漆黒のグランドピアノによく映える。観客はうっとりと洵を見つめ聴き入っていた。
『俺と一緒に歩こう』
洵の言った言葉を噛みしめる。以前私が言った言葉を踏まえての台詞だろう。最後に洵に会ったあの日、私は白馬の王子様を求めているわけではないと言った。共に肩を並べて歩いて行けるパートナーが欲しいと言った。その時の言葉を洵は覚えていてくれていた。
私は、どうしたらいいだろう。突然のことに驚きすぎて頭がついていかない。共に肩を並べて歩いていけるだろうか。洵と肩を並べて歩いていけるだけの女になっただろうか。自分で自分を卑下せず、前を向いて歩いていけるだろうか。
放心状態のまま、ただ座っているだけで精一杯だった。洵の演奏が遠い場所で流れるBGMのように心地よく耳を通り過ぎていく。
演奏が終わり、再び拍手が巻き起こる。私は手を叩く気力すら湧かず、ただ茫然とステージを見つめていた。
「ごめんね、杏樹。私、あんたに内緒にしてきたことがあるの」
ふいに優馬が口を開いた。
「何を?」
「あんたにあげたコンサートチケット。本当は洵から貰ったものなの」
「えっ!?」
私は驚いて姿勢を正し、優馬の方を向いた。
洵はピアノを演奏し始めた。曲目は『ノクターン第20番』
洵と最後に会った日に、洵が弾いていた曲だ。切なく情感豊かで、とても甘い曲だ。
この曲は、洵の容姿によく似合う。色っぽく官能的で、整った横顔と長い手足が漆黒のグランドピアノによく映える。観客はうっとりと洵を見つめ聴き入っていた。
『俺と一緒に歩こう』
洵の言った言葉を噛みしめる。以前私が言った言葉を踏まえての台詞だろう。最後に洵に会ったあの日、私は白馬の王子様を求めているわけではないと言った。共に肩を並べて歩いて行けるパートナーが欲しいと言った。その時の言葉を洵は覚えていてくれていた。
私は、どうしたらいいだろう。突然のことに驚きすぎて頭がついていかない。共に肩を並べて歩いていけるだろうか。洵と肩を並べて歩いていけるだけの女になっただろうか。自分で自分を卑下せず、前を向いて歩いていけるだろうか。
放心状態のまま、ただ座っているだけで精一杯だった。洵の演奏が遠い場所で流れるBGMのように心地よく耳を通り過ぎていく。
演奏が終わり、再び拍手が巻き起こる。私は手を叩く気力すら湧かず、ただ茫然とステージを見つめていた。
「ごめんね、杏樹。私、あんたに内緒にしてきたことがあるの」
ふいに優馬が口を開いた。
「何を?」
「あんたにあげたコンサートチケット。本当は洵から貰ったものなの」
「えっ!?」
私は驚いて姿勢を正し、優馬の方を向いた。