ショパンの指先
「それだけじゃない。私はずっと前から洵と連絡を取っていたの。といっても、洵が消息不明になった頃からじゃない、ポーランドに行った後からだけどね。だから洵は、あんたがアマービレで働いていることとか、絵の受賞のこととか、全部知っているの。遠い異国の地から、洵はずっとあんたのことを応援していたのよ。絵の受賞のことを聞いて、洵は急遽来日コンサートを開くことにした。あんたの為よ。このコンサートはあんたの為に開かれたの。だから、杏樹がここに座って聴いていることも洵は最初から知っていた。あんたが必死に隠れようとも、無駄だったの。あんたは気付いてないかもしれないけど、何度も洵はチラチラと杏樹の方を見ていた。気付かれてしまうって私が心配するほどにね」
私は驚きすぎて、しばらく開いた口が塞がらなかった。
洵は全て知っていた? 頭が真っ白になって何も考えることができない。
「あんたはもう大丈夫。どこに行ったってやっていける。なんたって私のしごきを耐え抜いた女ですもの。自信を持ってアマービレを卒業しなさい」
……そうだ。洵の元に行くということは、アマービレを辞めなきゃいけないということだ。洵は世界で活躍する男だから。英語もまともに喋れない私が外国で生活することなんてできるのだろうか。
「待って優馬。私……」
不安でいっぱいだった。仕事は本当に大変だったけれど、優馬含め、アマービレの従業員の皆が厳しくも優しく接してくれたから、私は楽しく過ごすことができた。そのアマービレを卒業するなんて、考えられない。
「あんたがいる場所は、アマービレじゃないでしょ。アマービレは仮の宿。ここから羽ばたいていかないと。洵みたいにね」
「でも……」
「甘えるんじゃないわよ。甘えさせるために働いてもらったわけじゃないから。あんたはここで燻っているような女じゃない。自由に生きなさい。それがあんたには一番合っている」
私は驚きすぎて、しばらく開いた口が塞がらなかった。
洵は全て知っていた? 頭が真っ白になって何も考えることができない。
「あんたはもう大丈夫。どこに行ったってやっていける。なんたって私のしごきを耐え抜いた女ですもの。自信を持ってアマービレを卒業しなさい」
……そうだ。洵の元に行くということは、アマービレを辞めなきゃいけないということだ。洵は世界で活躍する男だから。英語もまともに喋れない私が外国で生活することなんてできるのだろうか。
「待って優馬。私……」
不安でいっぱいだった。仕事は本当に大変だったけれど、優馬含め、アマービレの従業員の皆が厳しくも優しく接してくれたから、私は楽しく過ごすことができた。そのアマービレを卒業するなんて、考えられない。
「あんたがいる場所は、アマービレじゃないでしょ。アマービレは仮の宿。ここから羽ばたいていかないと。洵みたいにね」
「でも……」
「甘えるんじゃないわよ。甘えさせるために働いてもらったわけじゃないから。あんたはここで燻っているような女じゃない。自由に生きなさい。それがあんたには一番合っている」