ショパンの指先
私が泣きそうな顔で優馬の腕に縋っていると、優馬は呆れたような顔してステージ上を指さした。
「ほら、洵が待っている。あんたの行くべき場所はどこ? あんたが本当に行きたい場所はどこなの?」
ステージを見ると、いつの間にか洵がピアノの椅子から立ち上がって、こちらを真っ直ぐに見つめていた。その視線の先に気付いた観客たちも、チラチラと私の方を向いている。
「待って、行けない。こんな大勢の人の前で。私の顔、泣き腫らしてきっと酷いことになっている」
「あんたが人より目立つのは、何も顔立ちが整っているからだけじゃないのよ。あんたはいつもエネルギーに溢れていて、強くて凛々しくて、そんな内面が溢れ出ているから綺麗なの。自信を持ちなさい。あんたの取り柄は内面なのだから」
いつも周りから、お前の取り柄は見た目くらいだと言われ続けた私にとって、優馬の言葉は最大級の褒め言葉だった。
「大丈夫、あんたの内面はとても輝いている。綺麗よ、杏樹。胸張って、洵の元に行きなさい」
胸のもやもやが、晴れていく。私は頷いて、顔を上げた。羽織っていたジャケットを脱ぐと、肩が全開になりシグナルレッド色のドレス一枚となった。脱いだ理由は特にない。ただ、この姿の方が私らしいとなんとなく思ったからだ。
立ち上がり、階段を降りていくと観客席から小さなどよめきが起こった。
「綺麗」と呟く声が聞こえる。嫉妬の眼差しよりも、憧れのような目で見られている気がする。洵は女性人気が高いから、心ない野次を受けることも覚悟していたけれど、それよりも温かい眼差しの方が多かった。
洵は、世界的なピアニストだ。一方の私は、地方の小さな賞を受賞しただけの、自称画家だ。絵だけで食べていくことは難しいだろう。自分に才能があるのかも分からない。一生芽が出ず終わるかもしれない。
「ほら、洵が待っている。あんたの行くべき場所はどこ? あんたが本当に行きたい場所はどこなの?」
ステージを見ると、いつの間にか洵がピアノの椅子から立ち上がって、こちらを真っ直ぐに見つめていた。その視線の先に気付いた観客たちも、チラチラと私の方を向いている。
「待って、行けない。こんな大勢の人の前で。私の顔、泣き腫らしてきっと酷いことになっている」
「あんたが人より目立つのは、何も顔立ちが整っているからだけじゃないのよ。あんたはいつもエネルギーに溢れていて、強くて凛々しくて、そんな内面が溢れ出ているから綺麗なの。自信を持ちなさい。あんたの取り柄は内面なのだから」
いつも周りから、お前の取り柄は見た目くらいだと言われ続けた私にとって、優馬の言葉は最大級の褒め言葉だった。
「大丈夫、あんたの内面はとても輝いている。綺麗よ、杏樹。胸張って、洵の元に行きなさい」
胸のもやもやが、晴れていく。私は頷いて、顔を上げた。羽織っていたジャケットを脱ぐと、肩が全開になりシグナルレッド色のドレス一枚となった。脱いだ理由は特にない。ただ、この姿の方が私らしいとなんとなく思ったからだ。
立ち上がり、階段を降りていくと観客席から小さなどよめきが起こった。
「綺麗」と呟く声が聞こえる。嫉妬の眼差しよりも、憧れのような目で見られている気がする。洵は女性人気が高いから、心ない野次を受けることも覚悟していたけれど、それよりも温かい眼差しの方が多かった。
洵は、世界的なピアニストだ。一方の私は、地方の小さな賞を受賞しただけの、自称画家だ。絵だけで食べていくことは難しいだろう。自分に才能があるのかも分からない。一生芽が出ず終わるかもしれない。