ショパンの指先
話したいことが、沢山ある。今すぐ抱きしめたい衝動に駆りたたれる。でも、たった数歩の距離を縮めることができない。
お互い見つめ合ったまま、言葉を交わせずにいたら、洵の腕がすっと伸びてきた。差し出された手を見つめながら、私は立ち止まった。
心が、揺れる。これ以上好きになる人は現れないと確信しているだけに、生涯最後の恋を大切にしたい気持ちはある。心の赴くままに、素直に洵の元に行けたのなら、きっと幸せになれると思う。どんなに辛い事があっても、洵が側にいるだけで乗り越えていけるような気がする。
昔の私たちだったら、二人だけが全てだと、依存し合い、欲に溺れ、社会から孤立してしまうような子供じみた無茶な愛し合い方しかできなかっただろう。けれど、今は違う。互いに支え合い、独立した関係が築けると思う。
……でも。
本当にこの手を取っていいのだろうかと迷っている私がいる。
洵の魅力的な大きな手を見つめながら、自分の手を伸ばせずにいた。私はつい先ほどまで、洵と共に歩く未来を想像すらしていなかった。私たちは遠い距離を保っていた方が、お互いに幸せなのだと信じていた。
それが私たちの結末で、その結末は決して悲劇的ではないと自分に言い聞かせていた。それなのに、洵を目の前にしただけで、今までの考えを全て覆していいものなのだろうか。それは、単に、自分の欲望に都合のいい言い訳をして、目の前の快楽に溺れようとしているのではないだろうか。
私は怖かった。目の前に差し出された手が、魅力的であればあるほど、躊躇した。あの時……。
洵と結ばれたあの日。私はただ夢中で、幸せで、気持ちよくって、ただただ目の前の快楽に溺れていた。その結果もたらされた犠牲が、どんなに大きいか知ることもなく。
結果的に洵は自分の力で夢を掴んだから良かったけれど、もしもあのまま洵が行方不明になり、ピアノを諦めるような結果になっていたら、私は自分が死ぬよりも辛い地獄を生涯味わい続けることになっていたと思う。
お互い見つめ合ったまま、言葉を交わせずにいたら、洵の腕がすっと伸びてきた。差し出された手を見つめながら、私は立ち止まった。
心が、揺れる。これ以上好きになる人は現れないと確信しているだけに、生涯最後の恋を大切にしたい気持ちはある。心の赴くままに、素直に洵の元に行けたのなら、きっと幸せになれると思う。どんなに辛い事があっても、洵が側にいるだけで乗り越えていけるような気がする。
昔の私たちだったら、二人だけが全てだと、依存し合い、欲に溺れ、社会から孤立してしまうような子供じみた無茶な愛し合い方しかできなかっただろう。けれど、今は違う。互いに支え合い、独立した関係が築けると思う。
……でも。
本当にこの手を取っていいのだろうかと迷っている私がいる。
洵の魅力的な大きな手を見つめながら、自分の手を伸ばせずにいた。私はつい先ほどまで、洵と共に歩く未来を想像すらしていなかった。私たちは遠い距離を保っていた方が、お互いに幸せなのだと信じていた。
それが私たちの結末で、その結末は決して悲劇的ではないと自分に言い聞かせていた。それなのに、洵を目の前にしただけで、今までの考えを全て覆していいものなのだろうか。それは、単に、自分の欲望に都合のいい言い訳をして、目の前の快楽に溺れようとしているのではないだろうか。
私は怖かった。目の前に差し出された手が、魅力的であればあるほど、躊躇した。あの時……。
洵と結ばれたあの日。私はただ夢中で、幸せで、気持ちよくって、ただただ目の前の快楽に溺れていた。その結果もたらされた犠牲が、どんなに大きいか知ることもなく。
結果的に洵は自分の力で夢を掴んだから良かったけれど、もしもあのまま洵が行方不明になり、ピアノを諦めるような結果になっていたら、私は自分が死ぬよりも辛い地獄を生涯味わい続けることになっていたと思う。