クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由~隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる~
「はい、今開けます」


まずはチェーンをしたまま、ほんの少しだけドアを開けた。


何も……見えない。


「こんばんは」


夜の挨拶と共に、「桐生」と名乗った男性がドアの隙間にサッと現れた。


「……」


音にならない声。


「はじめまして。こんな時間にすみません」


知らなかった――
人間、驚きを通り越すと言葉が消えてしまうんだ。言いたいことがあるのに、口が全く言うことをきいてくれない。
おまけに体まで動かなくて、ドアノブを持った手が、まるで接着剤でも塗られたみたいに固まってしまった。


「……あ、あ、あの……」


ようやく、ほんの少しだけ息が吸えた。


「大丈夫ですか?」


「あっ、は、はい。ちょっと待ってください」


ハッとして我に返り、急いでドアを開けると、男性の姿が目の前に現れた。
< 2 / 278 >

この作品をシェア

pagetop