クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由~隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる~
し、詩穂ちゃん!?
思いもよらない呼ばれ方に腰が砕けそうになる。 私は、近くにあったテーブルに手をついて、かろうじてその難を逃れた。


「あ、あの、はい。よろしくお願いします」


返事をしたものの、何が「よろしく」なのかわからず、気が動転している。
だけど、桐生さんは、そんなことはお構い無しに続けた。


「俺は、拓弥だから」


「……あ、えと」


「た・く・み」


「あっ……た・く……」


そんなの、スムーズに言えるわけもなく、たった3文字なのに舌がもつれる。


「ゆっくりでいいから言ってみて」


「は、はい……た・く……み……さん」


「うん、言えた言えた。その調子」


あまりに優しい眼差しと温かな励まし。
明らかに幼稚園児みたいに扱われている。
でも、桐生さんの笑顔を見ているとすごく幸せな気持ちになるから不思議だ。
< 33 / 278 >

この作品をシェア

pagetop