クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由~隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる~
「私こそです。あ、あの、何かあったら言って下さいね。騒音とか……」


「こちらこそ、何でも言って下さい。すみません、お名前、聞いてもいいですか?」


「あ! はい、えと……私は、姫川 詩穂(ひめかわ しほ)と言います。よろしくお願いします」


「桐生 拓弥(きりゅう たくみ)です。夕食どきにすみませんでした」


「いえ、大丈夫です」


首を横に振る私に対して、少し表情を緩め、ニコッと返される美しい笑顔。
この、胸が撃ち抜かれるような甘い衝撃を、私は決して悟られてはいけないと思った。


「では……失礼します」


「は、はい。失礼します」


ドアがゆっくりと閉まり、私はその場で大きく息を吸った。たった数分間のやり取りで失われた酸素達が、慌てて体中に行き渡っていく感じがした。


「何だったの? 今のは現実?」


心の声が飛び出した。
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