クールなイケメン御曹司が私だけに優しい理由~隣人は「溺愛」という「愛」を教えてくれる~
まだ、手が微妙に震えてる。
1人鍋の用意は途中のまま、洗面台の鏡に自分自身の顔を写しながら、必死に動揺を沈めようと頑張った。


「落ち着け……落ち着け……。落ち着くんだ、詩穂。大丈夫、大丈夫、大丈夫だから……」


25歳、独身。
見た目普通のOL、性格も……きっと普通。
何の特徴もないこんな私を見て、桐生さんはどう思ったんだろう?


もしかして、つまらない女が隣にいることを残念に思ったかも知れない。そう思うとものすごく申し訳ない気分になる。
でも、なぜ引越しの挨拶に来ただけの人に対してこんなにも私が悩まなければならないのか。


もう、わけがわからない――


恋愛経験もたった1度だけ、高校の時に半年間付き合っていた彼氏と別れてからは、恋愛することに臆病になっていた。
だからといって、大学の4年間、そして今も、彼氏がいないことをそれほど嘆くこともなく生きている。
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