【受賞】ブルーガーネットな恋 ~エリート上司は激愛を隠して部下に近づく~
「あーあ、怒らせちゃった。ほんと、辞めたら」
 萌美は嘲笑を浮かべてぼそっと言う。その言葉は柚花の胸に深く突き立った。

「いらっしゃいませー」
 なにも言わない柚花を置いて、萌美が接客用の笑顔でお客様に声をかける。

「深雪山さん、大丈夫?」
「はい」
 京吾に声をかけられ、柚花は頷く。

「だったら笑顔で」
「はい」
 柚花は無理やり笑顔を作った。

「新人じゃないんだから、しっかりね」
 冗談めかした京吾の言葉が、萌美の言葉以上にぐさりと突き刺さる。

「店が閉まったら、ちょっと話をしよう」
「はい」
 お説教をもらうのだろうか。
 柚花はどんよりした内心を抱え、必死に笑顔を作って接客を続けた。



 京吾は定時で上がっていった。
 柚花とは閉店後に駅で待ち合わせになっているが、なにを言われるのか想像するだけで胃が痛くなる。

 客が途切れ、沙知絵がトイレに行ったときだった。
< 70 / 100 >

この作品をシェア

pagetop