ワケありニートな年下ワンコを飼いました
 いまの状態が、お互いにとって一番居心地がいいのだと言い聞かせているだけ。このままでも十分贅沢で幸せだと感じているのは、本当だもの。

 だから、彼の心に近づけなくてもいい。この関係を壊してしまうのが怖いから。

 凛子に返す言葉がなくて、黙々とお弁当を口に運ぶ。いつも通りの優しい味つけ。ガクくんのように、ふわふわしてやわらかい感じがする。

 いつの間に、欠かせないものになっていたのかな。非日常が日常に変わっていくスピードが、あまりにも早すぎて驚く。

「はい、味見~」

 黙ってしまった私に、凛子がハンバーグをひと切れおすそ分けしてくれた。そういえば、新しいキッチンカーで買ったんだっけ。

 やわらかくてジューシーなハンバーグ。デミグラスソースも、コクがあって美味しい。前までなら、とても満足していたと思う。だけど……。

「どう? 彩女にとっては、彼のお弁当のほうがいいんじゃない?」
「……うん」

 この味じゃないとダメ。ガクくんが私を想って、私だけのために作ってくれた、この味じゃないと。そのことを痛感した。

「長く一緒にいるのなら、味覚って大事なのよね」

 窓の外を眺めながら、凛子は深いため息をついた。10か月くらいで離婚した相手とは、味覚が合わなかったとか言っていたっけ。
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