ワケありニートな年下ワンコを飼いました
 分かってはいるの。娘の将来を心配しているからだってことは。
 それでも、期待に応えられないことが心苦しくて。逃げるように、留学したり家を買ったりしていた。

 だけど、もう目を背けるのはやめた。女は度胸よ。たとえ否定されたって、突き進むのみ。私の人生なんだから。

「えっとね、話したいことっていうのは」
「とりあえず、ゆっくりお茶でも飲まない? ほら、お父さんも」

 さっそく話を切り出そうとしたら、母がダイニングテーブルにつくよう促した。

 ついつい気が急いてしまったけれど、考えたら久しぶりの帰省だものね。いきなり用件を済ませようなんて、少し野暮だったわ。

「コーヒーを淹れようか。彩女は、ブラックでいいでしょ?」
「うん。ありがとう」

 テーブルには、母の手作りマドレーヌが置かれていた。
 これを食べるのも久しぶりね。米粉を使っていて、砂糖が控えめだから、とても優しい味。昔から全然変わらない。

 そして母が淹れるコーヒーも美味しい。豆の挽き方とお湯の温度、蒸らし時間や注ぎ方、すべて計算されているから。

 こんなふうになりたいと思っていた時期もある。完璧に家事をこなして、家族のために尽くすことが幸せだと感じる母親に。

 でも、壊滅的に不器用な私には、必要以上に女性らしい喋り方をするのが精一杯。形から入っても中身がついていかない。
< 194 / 278 >

この作品をシェア

pagetop