ワケありニートな年下ワンコを飼いました
「兄さん、夕飯は食べた?」
「いや」
「自宅で食べる?」
「何時になるか分からなかったから、外食すると言ってある」
「それなら、ちょうどよかった。ガクの料理を食べていってよ」

 私たちの前にロゼワインを置きながら、マスターが微笑む。横では、ガクくんの目が輝いていた。
 
「今日は彩女さんに、新メニューの試食をしてもらう予定なんだよ。せっかくだから、兄さんにも感想をもらいたいな。ねぇ、ガク」
「う、うん。お父さんさえ、よければ……」

 とってもしおらしい。ガクくんって、お父様の前ではいつもこうなのかな。 
 子どものころから、あまり遊んでもらえていなかったと言っていたし……お互いに接し方がよく分からないのかもしれない。

 きっとお父様は仕事ひと筋なのね。もしかすると、私と同類なのかしら。

「そうだな……これから店を探すのも面倒だし、いただこうか」
「ほ、本当? もう仕込みはしてあるから、いまから準備するね! 彩女さんも、待ってて!」

 とびっきりの笑顔で、ガクくんはキッチンへ向かった。

「……あんなふうに笑った顔を見たのは、久しぶりだな」
 
 ロゼワインをひと口飲んで、お父様がひとり言のように呟く。その表情からは、ガクくんに対する愛情がにじみ出ているように感じた。
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