ワケありニートな年下ワンコを飼いました
「ガク。今日はもう、上がっていいよ」

 しばらくしてテーブル席の男女が退店したあと、店内の掃除をしているガクくんに、マスターが言った。

「明日も、夕方から頼むね」
「はーい」

 そっか。私が待っているから、マスターは気を遣ってくれたのね。逆に悪いことをしちゃったかしら。

「すみません、マスター」
「いえ。今日は寒いし、僕も早く帰りたいんですよ」
「じゃ、彩女さん、帰りましょー」

 ガクくんは、仕事着にそのままコートを羽織って出てきた。やっぱり、洋服はもう少し必要な気がする。

 マスターに見送られてお店を出ると、キンと冷えた空気が肌を刺してきた。この1週間で季節は一気に進んで、もうすっかり冬の空気になっている。

「はぁ、結構冷えていますねぇ」
「晴れているから、放射冷却現象が起きているのね」

 すると突然、ガクくんが小さく吹き出した。
 
「どうしたの?」
「なんか彩女さんらしい返しだなぁって。そういうところ、好きです」

 好きって、さらりと言うわね。犬が飼い主に懐くような感覚で、深い意味はないんだろうけど。
 でも、こんな可愛げのないところを好きだと言ってくれるのは、素直に嬉しかった。

 ひとりだと急ぎ足になる家路も、ガクくんと一緒だと、のんびり歩きたくなる。やっぱり癒しの存在だわ。
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