nonsense magic
▼
▽
タクシーの運転手さんに行き先を告げると、すごく嫌そうな顔をされてしまった。
「(それもそうだ。……徒歩10分ほどの距離でわざわざタクシーを呼ぶ客なんて、向こうからしたら迷惑に決まってる)」
支払いを済ませて運転手さんに深く頭を下げると、あの、とそのひとのパーカーの裾を引っ張る。何度も繰り返せばうっすらと瞳が開かれるので、ほっとする。
「、タクシー降りられますか?」
「………ん、」
「腕回して、……ゆっくりでいいので、体重かけてください」
熱に浮かされた瞳は確かにわたしを捉えているけど、どうも視線が合わない。だらんと垂れ下がった腕をそっと掴み首の後ろに回して様子を伺えば、辛うじて立ち上がれる体力は残っているのか車から降りてもらえたので、再びほっとする。
「病院も、……お家もだめなら、一晩お部屋をお貸しします。わたしは一人暮らしなので家には誰もいません」
……自分でもめちゃくちゃなことを言っているのはわかってる。今日初めて会ったこのひとを泊めるのも常識的にあり得ないことで、ましてやこのひとだって、見ず知らずのわたしの家に泊まるのは抵抗があるはずだ。
「……で、も、あの、やっぱり抵抗があると思うので、もし頼れるお友達の家とかがあるなら、またタクシー呼びます。……だから、野宿だけは─────「、わかった」
「……え、あ、」
「─────一晩、泊めて」
囁くようにかけられる熱っぽい吐息とは対に、ゆるやかに射抜かれる瞳は冷え切っていて、そのちぐはぐな温度差が少し怖くて。
こくん、と頷くのに精一杯だった。