nonsense magic




「きりくんは──────」


数々の疑問がぽろりとこぼれそうになって、あわてて口をつぐむ。

……このひとには踏み込んではいけない、というか、踏み込む権利なんてあるわけない。



「なに?」

「き、…き、」

「き?」


「……''桐"って綺麗な響きで、その、……似合うな、って」



……脈絡がないのはわたしも同じ。
でも、これはお世辞とかじゃなくて、本心。

"桐"というどこか中世的で柔らかい響きは、不思議な雰囲気を纏う、どこか掴めない彼にぴったりだとおもった。



「"はやみきり"って、響きアンバランスじゃない?」

「え、そう……かな、」 


どこか冷たさを滲ませた口調で、吐き捨てるような言い方。

……自分の名前、好きじゃないのかな。


 
「…でも、おれも、」



そんなわたしの思考を覆すみたいに、柔らかい声が耳をくすぐった。

なにかを掬い取るみたいに、やさしく目元を細めて。



「桐って名前は、けっこう好き」


さっきまでの冷たいカオとは、全くちがう。

やさしい声と、柔い笑み。



「っ、」



ぎゅ、と心臓を緩く掴まれたような感覚のあと、ばくん、となにかが弾けるみたいに揺れる。
たくさんの顔を持っているこのひとは、名前しか知らないひと。


……なのに、こんな。





< 21 / 159 >

この作品をシェア

pagetop