nonsense magic
この場所ではこういうことは当たり前で、行き交うひとたちだって目に留めてもいないんだろう。
この街を甘く見ていた。
今更、そんなことに気づいたって遅いのに。
「ほーら、いこ?」
連絡を取ろうとスマホを取り出そうとするけど、手が震えてスマホが地面に落っこちてしまう。
咎めるように掴まれた指先から、熱が奪われていく。
さっきまであんなに暑かったのが、うそみたい……。
俯くわたしに、男は満足そうな笑みを浮かべながら足を進めていく。
……ホテルのひと、助けてくれるかな。
はんぶん投げやりになって、これからのことを考えたら、じわ、と涙がにじんだ。
そんな甘い考え、ここでは通じない。
……ああもう、ほんとう、ついてない。
「手、離してあげれば」
突然の出来事。
背後から聞こえた低音、掠れるような甘い声。
「っ、」
たった一言、なのに。
頭を回すことに時間がかかってしまう。声に制されるみたいに、固まってしまう。
それくらい、そのひとの声からは威圧感を感じた。