冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
(落ち着いて。梨花さんが本当のことを言っているとはかぎらない。彼女はただ、私に意地悪したいだけなのかも……)

 咲穂の思考を見抜いたように、梨花がクスリとする。

「もしかして疑ってる? ふたりが許婚だったことは、調べればなにかしら記事が出てくると思うわよ。破局した当時の櫂さんは今ほど著名ではなかったから、あなたとの結婚のような騒ぎにはなっていなかったようだけど」

 梨花の表情は自信に満ちていて、真っ赤な嘘ではないのだろうと推測できた。ダメ押しのように彼女は続ける。

「それに、翠さんのことは潤もよく知っているはず。疑うなら彼に聞いてみたら?」

 ふと、潤から聞いた話を思い出す。

『兄貴が昔好きだった女もそういえば日本人だったな。大和撫子が好みなのかも』

 法事の席で少しお喋りをしたとき、彼はそんなふうに言っていた。

(大和撫子……)

 梨花のスマホに映る彼女は、まさしく大和撫子を絵に描いたかのような女性だった。

「これでわかったでしょう? 彼はあなたを愛してなんかいないわ」

 満足そうに、梨花は満面の笑みを浮かべる。それから、急に顔をゆがめて咲穂への憎悪をあらわにした。

「だから、これ以上調子にのって?美津谷の後継者の妻です〟って顔をするの、やめてくれるかしら? 不愉快なの」

 長い髪をなびかせて彼女はくるりと踵を返した。コツコツという足音が遠ざかっていくのを咲穂は呆然と聞いていた。

 帰宅した咲穂はリビングで開いているノートパソコンの画面を見つめ、下唇を噛んだ。調べないほうがいいと頭の片隅でわかっていたのに『滝川翠』を検索してしまった。
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