冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 梨花の言ったとおり、彼女は日本画の世界では著名なようであちこちの美術系サイトなどで経歴が紹介されていた。

 年齢は櫂と同じ三十一歳。旧財閥系の滝川商事の社長令嬢で、現在はフランス在住。画家としての才能も早くに花開き、今や世界中で個展を開けるほどの実力とのことだ。スマホをスクロールしていると、彼女のインタビュー記事のようなものが出てきた。

【私は芸術と結婚したので、生涯伴侶をつくるつもりはありません】

 そんな見出しがついた記事を咲穂は目を追う。

 許婚がいたが、人生のすべてを日本画に捧げようと決め結婚は断念した。というような内容が彼女の言葉でつづられている。
 下世話なニュースサイトなどでは、その許婚が美津谷櫂であることは周知の事実として語られていた。

(ネットの情報を鵜呑みにはできないけど、梨花さんの話のとおりだ)

 美術になんの造詣がない咲穂でも、彼女の絵には心惹かれた。きっと実物はもっともっと素晴らしいのだろう。

(才能があって……そのうえ信じられないくらいに綺麗な人)

 櫂の隣が彼女以上にふさわしい人などいないように思えた。

(ゆうべ、櫂さんは私を抱こうとして彼女を思い出したのかな。それで、あまりの違いにがっかりしたとか……)

 自分がつくり出した卑屈な想像に、胸がズキンと痛んだ。

 もし櫂が今も彼女を思っていたとしても、咲穂にはどうすることもできない。自分と彼は恋愛感情を抜きにしたビジネス婚として関係を始めたのだ。

 かつて婚約者がいたこと、今も彼女を思っていること。話してほしかったと、泣く権利すら自分にはない。櫂が愛してくれないことも……受け入れるしかないのだ。
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