冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 ひとりきりになった部屋で、櫂は重いため息を落とす。内心のイラ立ちを落ち着けようと、指先でトントンとデスクを叩いた。

(リベタスが成功をおさめそうだから、あの人もかなり焦っているようだな)

 あの人とは、もちろん自分を蛇蝎のごとく忌み嫌っている継母の塔子のことだ。
 大川から聞いた新しい役員人事。重要なポジションは潤派の人間で固められており、櫂の味方をしてくれる人間は不当に遠ざけられている。
 それに、このところ潤の妻である梨花が妙にコソコソと櫂の周囲をかぎ回っているのも不愉快だった。おそらく塔子に命じられて、櫂の弱みでも握ろうとしているのだろう。

(競争相手をさげることに、いったいなんの意味があるんだ? 見かけだけ上になったって、所詮、自分の能力は変わりやしないだろうに)

 塔子や梨花のやり方は、櫂にはまったく理解できない。

(潤でも、ほかの誰かでも、実力や成果で俺をこえる人間が出てきたならCEOの地位など、いつでも譲ってやるんだがな)

 仕事は好きだけれど、地位に執着はない。自分より優秀で、会社の業績を伸ばせる人間が出てきたなら喜んで席を明け渡すつもりだ。だが残念ながら、潤には自分と競い合う意思がない。

(あいつは、潤はきっと……)

 塔子も梨花もわかっているくせに、見ないふりをしているのだ。その点に関しては、櫂は彼を不憫だと思っている。兄としてなにもしてやれない無力さを感じてもいた。

(俺も潤も、いつまであの人に振り回されなくてはならないんだろうか?)
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