冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 塔子の存在は、いつも櫂を苦しめる。自分だけならまだいいが、いつか咲穂をも毒牙にかけるのではないか。想像するだけで寒気がする。

(ビジネス婚ではなく、もう一度、本当の意味で咲穂にプロポーズをしたい。咲穂を幸せにするためにも、あの人と決着をつけなくては)

 血の繋がりも愛情も、かけらもないが一応は家族だ。それゆえに白黒つける日を先延ばしにしてきたが、いいかげん覚悟を決めよう。櫂は大きくひとつ、深呼吸をした。
 塔子の思惑が反映された役員人事をどうひっくり返すか。知恵を絞り、あれこれ策を練っている間に、時計の針は夜十時を回った。

(あとは明日にするか)

 昨今はワークライフバランスが重視される時代だ。昔のように徹夜で仕事は、トップの姿勢としてよろしくない。
 帰り支度をして、櫂は執務室の電気を消した。
 裏の通用口から外に出る。少し歩けば大通りなのでタクシーはすぐにつかまるだろう。

(リベタスチームもさすがに帰ったかな?)

 連絡をしてみようかと咲穂の顔を思い浮かべたとき、視線の少し先に彼女がいることに気がついた。隣にいるのは悠哉だろう。声をかけるつもりで片手をあげたが、櫂はそこで言葉を止めた。

 悠哉がやけに真剣な顔で咲穂を見ているからだ。

(なにを話しているんだ?)

 大事な撮影前にトラブルがあったのだから、ふたりが真剣に話し込んでいても不思議はないのだ。わかっているのに、妙な胸騒ぎが櫂を焦らせる。

(仕事の話……じゃなさそうだな。長い付き合いになるが、悠哉のあんな表情は初めて見る)
< 130 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop