冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 彼は穏やかで人当たりがいいが、実はとても慎重な人間だ。自分の内面に他人が踏み込んでくることを嫌うし、そう簡単には人を信じない。そんな彼が……咲穂には最初から心を開いていた。いつもの営業スマイルとは、まったく異なる顔を見せていたのを櫂は知っていた。咲穂と悠哉は近い感性を持っているし、きっと気が合うだろう。

(もしかしたら咲穂も、俺といるときより自然体で過ごせるのかもしれない)

 そう考えたとき、自身の心臓が鈍い痛みを訴えた。
 櫂はくしゃりと自身の前髪を乱す。見苦しい嫉妬だと理解しながらも、心に黒いものが広がっていくのを抑えることができずにいた。

(よりによって悠哉か。ライバルとしては、もっとも手強い相手じゃないか)

 なにより……穏やかで温かい日常。櫂が咲穂に与えてあげられないものを、悠哉は持っている。その事実に櫂の胸はジリジリと焦げついた。

 その夜。同じくらいの時間に帰宅したので、当然彼女と顔を合わせることになった。
 櫂は燃えあがる嫉妬心を必死に隠して、なんでもない顔を装う。

「冬那の怪我の件は聞いた。大丈夫そうか?」
「はい。制作会社も七森さんも早急に対応してくださったので」

 彼女の口から悠哉の名が語られるだけで、胃がグッと重くなる。自分はいつから、こんなに嫉妬深くて情けない男になったのだろうか。
 咲穂はものすごく言いづらそうな顔で意を決したように口を開く。

「あの、櫂さん。七森さんのことで、ちょっとお伝えしたいことが……」

(どうしてそんな顔をする? まさか……)

 櫂は思わず、身体ごと咲穂に背を向ける。

「え?」
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