第一幕、御三家の桜姫


「ま、少なくとも俺は、透冶のことが分かればそれでいいから。わざわざクラスの他の連中と仲良くする理由はないって感じかな」

「……じゃあ、透冶くんが亡くなる前は?」


 その質問に、まるで気まずいことでもあるかのように、松隆くんは目を逸らす。


「……まあ、言われてみれば適当に話す相手はいたかもね」

「俺は今と特に変わらないが、遼は野球部員と仲が良くなかったか」

「……たまに一緒に野球やってた。でも半年くらい……それこそ透冶が死んでからは全然」


 その反応を聞いていると、本当に三人にとっては“透冶以外どうでもいい”と聞こえるようで――この世界から透冶くんが消えた結果、この世界で透冶くん以外への関心を失ったかのようで。透冶くんの死への異常な執着ともいうべき(とら)われ方は、三人の世界をピシャリと閉ざしているように思えた。

 同時に、そうすることで、まるでお互いを縛り付けているような、見張っているかのような、一方で繋ぎとめているような、そんな危うい連帯感があった。


「……あのさ。私、透冶くんの事件、あんまり詳しく知らないんだけど……」


 ゆっくりと、三人分の目がもう一度、私を見た。ドキリと心臓が緊張で揺れる。それでも、その連帯感の正体を知りたかった。


「教えてもらえないかな……その、一応、私達は一蓮托生(いちれんたくしょう)の身だし……」


 後半を付け加えたのは、そうでも言わないと教えてくれるはずがないと分かってたからだ。御三家と私と間には主従関係と利害関係しかない。信頼は必要ない。だから信頼のための情報は与えない。

 ただ、利害があるということは権利がある。そんな私の言い分を肯定するように、松隆くんは溜息をついた。


傍目(はため)には、事故だった」

「……警察とかも来たの?」

「一応ね。ただ捜査切り上げの速さは異常だった。だから俺達は、学校か誰かの圧力が働いたんじゃないかと踏んだ」

「第六校舎は当時から封鎖されており、必要最小限の管理しかされていなかった。その屋上に透冶が勝手に入り、たまたま壊れかけの柵に凭れかかって、その柵が外れ、共に転落した。事故当時、警察から聞いた捜査の内容はこんなところだな」


 ──ちょっと待って。第六校舎って、ここじゃん。私の顔色が変わったことに気付いた松隆くんは、なんでもない表情で頷いた。


「そうだよ。透冶が見つかったのはそこの裏庭だ」


 ヒッと悲鳴を上げたくなるのを(こら)えた。御三家は、幼馴染の死体が見つかったすぐ傍で、毎日その真相を探る手立てを考えていたということだ。

| (.)
< 134 / 240 >

この作品をシェア

pagetop