ぼくらは群青を探している
「先輩の誕生日にアイス買ってくるってなんだよ、パシリの才能あんじゃねーか。ガリガリ君しか食わねーよ俺は」
蛍さんがそれでいいというならそれでいいけど、それは先輩の誕生日に渡すものとして相応しくない気がする。例えばハーゲン・コペンとか高級なアイスなら誕生日の特別感もあるのに。
「蛍さん、安上がりなんですね……」
「お前先輩ナメてんのか」
そんな私達の会話の中に「九十三、蛍」と山口先生の大声が割り込んできた。職員室の中から、その大きな顔だけを出している。
「喋ってばっかりの声、聞こえとるぞ。補習進んどるんか」
「一年トップの三国ちゃんと二年トップの能勢くんがついてるー」
「自分で解け、バカモン」
やっぱり補習だったんだ……。しかも一応自主的に解くことを推奨されていたらしい。 (私は世界史が分からないからいいけど)能勢さんが口を出していいものではなかったようだ。
「……じゃあ私はこれで」
「えー、三国ちゃんもっとお喋りしていこーよー」
「お喋りつったな今」
「永人だって喋ってばっかじゃん。本当は三国ちゃんから誕プレ欲しいん──」
ベシャ、と世界史のプリントが九十三先輩の顔面に押し付けられた。九十三先輩も軽口は相手を選べばいいのに……。
「じゃ、俺もこれで」
「お前は答え教えていけよ」
「補習なんですよね?」
「わかんねーもん」
「ほら行くよ三国ちゃん」
ひょいと両肩に乗せられた手に方向転換させられ、ドキリと心臓が跳ねた。雲雀くんもそうだけど、能勢さんもなんでもない顔でスキンシップを取ってくる。女の子に慣れてるせいだろうし、だから他意がないことも分かるけど、顔が良い人がそういうことをするのはやめてほしい。
そんな能勢さんの後ろからは「お前が帰るのはいいけど三国ちゃんは置いてけよ!」と九十三先輩の太い声が響き、廊下にいる人達が肩を竦ませた。でもすぐに能勢さんが「誘拐犯みたいなこと言わないでくださーい」と柔らかい声で返事をしたので多少みんなの恐怖心は緩和されただろう。……私は私で群青の先輩達には慣れてきたけど、やっぱりあの人達って普通にいたり怒鳴ったりすると怖いんだな……。
「で、三国ちゃん」
ぽんっと軽く肩を押すようにして手を離した能勢さんは、なぜか階段を指さした。特別科の二年生の教室は校舎が違うので、行先は違うはずだ。
「俺、煙草吸いにいくけど、屋上行ってみる?」
前半にとんでもない宣言が入っていたので一瞬耳を疑った。学校で見ると──特にさっきの蛍さんと九十三先輩と見比べると──いかにも品行方正な優等生の能勢さんに似合わないセリフ過ぎる。そもそも、職員室帰りの足でそのまま煙草を吸いに行くということは職員室に煙草を持って行っていたということだ。私なら生まれ変わってもそんな度胸は持てないだろう。
というのはさておき、学校の屋上は行ってみたいスポットだったので、コクリコクリと頷いた。能勢さんは動物でも扱うように軽く手招きする。
「高校生になったとき、漫画で見るのと違って屋上は入れないんだなって思わなかった?」
蛍さんから、能勢さんが煙草のために屋上の鍵を持っている話は聞いていたし、その話を聞いて行ってみたいとは思っていたけど、能勢さんがいうのはそれよりもっと前段階の話だ。通常なら、お昼ご飯を友達と食べるときにでも「屋上に行ってみる?」という発想が出てきて「でもあれって漫画の中だけらしいよ」と残念がるまでがワンセットだと、そういうことだろう。
蛍さんがそれでいいというならそれでいいけど、それは先輩の誕生日に渡すものとして相応しくない気がする。例えばハーゲン・コペンとか高級なアイスなら誕生日の特別感もあるのに。
「蛍さん、安上がりなんですね……」
「お前先輩ナメてんのか」
そんな私達の会話の中に「九十三、蛍」と山口先生の大声が割り込んできた。職員室の中から、その大きな顔だけを出している。
「喋ってばっかりの声、聞こえとるぞ。補習進んどるんか」
「一年トップの三国ちゃんと二年トップの能勢くんがついてるー」
「自分で解け、バカモン」
やっぱり補習だったんだ……。しかも一応自主的に解くことを推奨されていたらしい。 (私は世界史が分からないからいいけど)能勢さんが口を出していいものではなかったようだ。
「……じゃあ私はこれで」
「えー、三国ちゃんもっとお喋りしていこーよー」
「お喋りつったな今」
「永人だって喋ってばっかじゃん。本当は三国ちゃんから誕プレ欲しいん──」
ベシャ、と世界史のプリントが九十三先輩の顔面に押し付けられた。九十三先輩も軽口は相手を選べばいいのに……。
「じゃ、俺もこれで」
「お前は答え教えていけよ」
「補習なんですよね?」
「わかんねーもん」
「ほら行くよ三国ちゃん」
ひょいと両肩に乗せられた手に方向転換させられ、ドキリと心臓が跳ねた。雲雀くんもそうだけど、能勢さんもなんでもない顔でスキンシップを取ってくる。女の子に慣れてるせいだろうし、だから他意がないことも分かるけど、顔が良い人がそういうことをするのはやめてほしい。
そんな能勢さんの後ろからは「お前が帰るのはいいけど三国ちゃんは置いてけよ!」と九十三先輩の太い声が響き、廊下にいる人達が肩を竦ませた。でもすぐに能勢さんが「誘拐犯みたいなこと言わないでくださーい」と柔らかい声で返事をしたので多少みんなの恐怖心は緩和されただろう。……私は私で群青の先輩達には慣れてきたけど、やっぱりあの人達って普通にいたり怒鳴ったりすると怖いんだな……。
「で、三国ちゃん」
ぽんっと軽く肩を押すようにして手を離した能勢さんは、なぜか階段を指さした。特別科の二年生の教室は校舎が違うので、行先は違うはずだ。
「俺、煙草吸いにいくけど、屋上行ってみる?」
前半にとんでもない宣言が入っていたので一瞬耳を疑った。学校で見ると──特にさっきの蛍さんと九十三先輩と見比べると──いかにも品行方正な優等生の能勢さんに似合わないセリフ過ぎる。そもそも、職員室帰りの足でそのまま煙草を吸いに行くということは職員室に煙草を持って行っていたということだ。私なら生まれ変わってもそんな度胸は持てないだろう。
というのはさておき、学校の屋上は行ってみたいスポットだったので、コクリコクリと頷いた。能勢さんは動物でも扱うように軽く手招きする。
「高校生になったとき、漫画で見るのと違って屋上は入れないんだなって思わなかった?」
蛍さんから、能勢さんが煙草のために屋上の鍵を持っている話は聞いていたし、その話を聞いて行ってみたいとは思っていたけど、能勢さんがいうのはそれよりもっと前段階の話だ。通常なら、お昼ご飯を友達と食べるときにでも「屋上に行ってみる?」という発想が出てきて「でもあれって漫画の中だけらしいよ」と残念がるまでがワンセットだと、そういうことだろう。