ぼくらは群青を探している
「クッキーはさすがに好き嫌いあると思わないよね。残念だったね」

「……でも胡桃から別のお菓子を貰ってたんで、それで満足したんじゃないかと……」

「俺が残念だったって言ったのは桜井くんじゃないよ」


 能勢さんは意味深に口角を吊り上げた。


「三国ちゃんが、だよ。三国ちゃんは、桜井くんに誕生日プレゼントをあげたかったでしょ?」


 ……だから、私は余計に能勢さんを疑ってしまったんだ。私は能勢さんを見透かすことができないのに、能勢さんはそうやって私を見透かすから。


「雲雀くんと別れるの?」


 集会の日、桜井くんの頭の良し悪しを訊ねた私に、能勢さんはそんなことは言わなかった。つまり、私が桜井くんを好きだということだけでなく、私が桜井くんを好きだということに集会の日以降、今の時点以前に自覚していたと分かっているのだ。

 能勢さんの洞察力に、今更驚きはしなかった。むしろ、殊、恋愛感情というものに対してこそ、その洞察力は最大限発揮されると言われても納得する。


「……別れませんよ」

「どうして?」

「……単純接触原理を教えてくれたのは能勢さんじゃないですか」

「どうして雲雀くんを好きになりたいの、って聞いてるんだよ。高校生の恋愛は大人の結婚とは違うでしょ? 別れたってみんなの記憶以外の記録が残るわけでもないし、人生を左右するような選択でもないんだから誰かに何かを言われる筋合いもない」

「……でも、軽々しく雲雀くんと付き合うと決めたわけじゃないです」


 能勢さんのいうことは(もっと)もだった。能勢さんが言っていることそれ自体に、私から何か反論できることなんてなかった。ただ、それは〝雲雀くんと別れることを正当化してくれる理由〟に過ぎない。


「……体育祭のときにも話しましたけど、雲雀くんのことは友達としてすごく好きですし……その、比べるのは良くないかもしれないですけど、笹部くんと違って、こう、異性として見れますし……」

「だから、それは好きになれそうな理由でしょ? 誰のことも好きじゃないならそれでいいんじゃない」


 まるで、そのアドバイスをした当時、能勢さん自身も私の感情に気付いていなかったかのような言い方だった。


「でも、三国ちゃんは桜井くんのことが好きだって気付いちゃったんでしょ?」


 でも、そんな言い方をされると、気付いていなかったのは私だけのように思えた。


「別の誰かを好きになれるの? 三国ちゃんってそんなに器用なの?」

「……私、自分で言うのもなんですけど、わりと理性的なタイプだと思っているので」

「理性的っていうか、理性しかないって感じだよね」


 ……悪口か罵倒にしか聞こえなかった。いや、きっとこの文脈ではそのとおりだろう。


「三国ちゃん、桜井くんを好きだって気付いてなかったにしても、雲雀くんと付き合わない選択をすればよかったのに。そうすれば後から桜井くんを好きだって気付いても困ることなんてなかったじゃない。たっぷり一週間もあって、なにをどう考えて雲雀くんと付き合うって決めたの?」


 三週間前とは言っていることが違う。まるで私が本音を伏せていたせいでその程度のアドバイスしかできなかったと言わんばかりだった。能勢さんも雲雀くんと付き合うのがいいと思うよなんて言ったくせに――なんて、別に、最終的に決断をしたのは私だったから、能勢さんに責任を押し付けるつもりなんてないのだけれど。


「桜井くんのことを好きでいてもしょうがないって、どこかで分かってたんじゃない?」


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