ぼくらは群青を探している
 桜井くんは、雲雀くんが私に告白したと聞いても「こうやって昼飯買いに行くときに俺と二人きりはやめろとかいい始めるんだったら困るよ」としか言わなかった。桜井くんにとって私と雲雀くんが付き合うことはその程度でしかなかった。

 それでもって、桜井くんの隣にはいつでも胡桃がいる。今までずっと桜井くんの隣にいて、きっとこれからもずっと桜井くんの隣にいる。私はきっとずっと桜井くんの一番ではない。

 能勢さんは煙草を咥えたまま腕を組み、だんまりの私に笑みを向ける。


「牧落ちゃんがいるから、自分が出てっても仕方がないって分かってたんじゃない? 三国ちゃんは理性的だからね」


 ……胡桃に劣等感を覚えたことはないけれど、桜井くんにとってずっと胡桃より下だという認識があることは否定できなかった。

 能勢さんはゆらゆらと煙草を揺らしながら「ま、大抵の女の子があれ見たら諦めるんじゃない? その意味で、やっぱり三国ちゃんの選択は間違ってないよ」と、私を理性的だと言う。


「俺は頭の弱い子は嫌いだけど、そこは人それぞれだし、自分より頭の良い子はヤダなんて男は馬鹿ほど多いだろうし。特に灰桜高校(うち)なんて男もみんな頭弱いからさ、そりゃ三国ちゃんはモテないよね」

「……いま私を(けな)す文脈でしたか……?」

「貶してなんかないんだよ、褒めてるんだよ。自分より頭の良い女の子は耐えられないなんて言うのはプライドの方向性を間違った男だけ。そんな低レベルな男たちには三国ちゃんはモテないだろうけど、それは別に三国ちゃんの評価を下げることじゃないんだよ。ただ、三国ちゃんは此処(ここ)において自分がモテない限りでちゃんと自分を正しく評価してるって話」


 ……つまり、大抵の男子が私より胡桃を高く評価するという認識は何も間違っていないと。だから、その胡桃を幼馴染に持つ桜井くんを好きになっても仕方がないと認識することも、何も間違っていないと、きっと能勢さんはそう言いたいのだろう。


「もう一回聞くね。どうして雲雀くんを好きになりたいの?」


 能勢さんは、私の思考の整理のお手伝いをしてくれたのだろうか。それとも、ただ後輩を虐めて楽しんでいるのだろうか。

 能勢さんは新しい煙草を取り出した。昼休みのチャイムはまだ鳴らない。日直のためにお弁当を早く食べたお陰だろう。

 誰かに話したいとは思っていなかったけれど、そんな風に感じるということは、きっと私は誰かに話したかったのだろう。


「……能勢さんのいうとおりですよ」


 誰にも話せるはずのない、私の選択。今度こそ間違っていないと、いつだって信じて選んで、そして間違え続けていた選択を、今度は正しいと。


「……私は多分、桜井くんを好きだって気付くより先に、桜井くんを好きでも仕方がないって気付いちゃったんです。好きでも仕方がない人を好きになっても仕方がない。それでもって雲雀くんのことは友達としてすごく好きで、ちゃんと異性として見ることもできる。きっと雲雀くんのことなら好きになると思ったのも本当です。それなら、雲雀くんと付き合うのが正しいって、私は思ったんです」


 だから、せめてちゃんと好きになりたい。雲雀くんは私は雲雀くんを好きじゃないと言ったけれど、そして現に私は桜井くんを好きだけれど、その感情から目を逸らして、代わりに雲雀くんを見つめ続ければきっと好きになる。

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