ぼくらは群青を探している
 私が正しいと思った選択は、ともすれば雲雀くんにとっては最低の選択だったのかもしれない。だから私が働かせているのは最低な理性なのかもしれない。それでも、私は正しい選択をしたかった。

 能勢さんは紫煙をくゆらせながら、いつもどおりの笑みを浮かべていた。でも、まるで「よくできました」とでも言っているかのようだった。

 続ける言葉はなく、ただじっと能勢さんを見つめ返す。能勢さんは少し目を伏せて、とんとんと煙草の灰を落とした。


「ま、前にも言ったけど、俺は三国ちゃんと雲雀くんはお似合いだって思ってるし、結構祝福してるし。俺は三国ちゃんの選択は間違ってないと思うね」

「……そうですか」

「ところで、俺、三国ちゃんになにかした?」

「……急になんですか」


 また随分と突飛(とっぴ)な話が始まった。正直、もう少し能勢さんの感想も聞きたかったのに、さっきまでの話はどこへ行ったのやら。でもきっと、能勢さんが聞きたい話は終わってしまったのだろうから仕方がない。


「ほら、今、桜井くんと雲雀くんのあれこれを色々喋ってくれたし。壁が一枚なくなったような──警戒心が(やわ)らいでるような感じがしたからさ。多分だけど、前までの三国ちゃんなら、俺と二人きりってちょっと緊張してたし、そこまで明け透けには喋ってくれなかったなあって」

「……能勢さんって本当になにかが見えてますよね」


 むしろ見えすぎてて怖い。私は見えてなさすぎておかしいと言われるけど、能勢さんのそれはそれでおかしいのではないだろうか。

 そして、私の警戒心が和らいでいるとしたら、自覚はなかったけれど、それは事実なんだろうし理由も明らかだった。

 ここ数ヶ月、胸に抱いてきた疑惑を吐露するときが来たらしい。誤った疑惑はまるで私の頭の悪さの証拠のようで、それをよりによって頭の良い能勢さんの前で口にするのは恥ずかしかった。ほんの少しの緊張を誤魔化すように髪を触りながら、そっと息を吐きだす。


「その……、大したことではないんですけど、いえ……蛍さんが、前から私を知ってたって聞いて」

「ふうん?」

「……能勢さんは、六月頃から、私の体が弱いって話してたじゃないですか。あれって嘘なんです」

「ん? そうなの?」


 そう、その反応だ。病気を虚弱体質と勘違いしている、それを裏付ける、その反応。


「……嘘っていうか……その元ネタって、親が、中学生の時の担任の先生に『娘は病気です』って伝えて、それをアナウンスしたせいなんですよね。それで中学の同級生は体が弱いって勘違いしている人がいて、でも私は全然体弱くないからみんなそんなことは忘れて、今はそんなこと思ってるのは荒神くんとかごく少数の人だけで、荒神くんはそんなセンシティブな情報を他言はしないけど、新庄に拉致されたときに新庄に話してて……要は、それって新庄しか知らないことだと思ってたんです」

「つまり、それを知ってる俺は新庄と繋がってるんじゃないかって思ったってこと?」


 さすが能勢さんだ、話が早い。こくりこくりと頷いたけど、能勢さんは心外そうな顔はしなかった。なんなら「なるほど、病気ね……」なんて頷いている。


「……でも、その、蛍さんが前から私のこと知ってたって聞いて……。なんなら荒神くんは蛍さんのパシリだから、荒神くんは私の体が弱いだのなんだのって話も蛍さんにしてて、それをみんなが知ってて。私が先輩達を──能勢さんを疑う理由ってなかったんだなって」

「ああ、なるほどね。それを月曜に蛍さんから聞いたんだ?」

< 518 / 522 >

この作品をシェア

pagetop