ぼくらは群青を探している
「そういうことです……」


 (つたな)い説明だったのに、その行間を簡単に補いながら理解してしまって、能勢さんの頭の出来を痛感する。蛍さんがトップに就任する際に反対派閥にいた能勢さんを、いまこうしてNo.2に据えた理由が分かる。こんな人が敵に回るのは厄介極まりない。


「そっかそっか、それで、疑うだけ無駄だったって分かって、この有様ってわけだ」

「……反芻されると恥ずかしいんですけど」


 笑う能勢さんに頬でも膨らませたくなった。うまい具合に手のひらの上で転がされて弄ばれているような、そんな気持ちになった。


「じゃ、俺を白だと断定した三国ちゃん。ピースしてたら和姦になるって、どういう意味か分かる?」


 また、突飛のない話が始まった。能勢さんに対して警戒心を抱いて、そして捨てて、なんて話よりもずっと突飛のない話。

 ただ、そんなことは問題ではなかった。文脈がないとか脈絡がないとか、そんな話ではなくて、あえて、私にそんな問いかけをする理由が見つからなかった。いや、問いかけをする理由がではなくて、能勢さんが私にそんな問いかけをすることができる理由が見つからなかった。


「……え……?」


 蚊の鳴くような声しか出ないくらい呆然としている私とは裏腹に、能勢さんは相変わらずいつもの態度を崩さない。いや、さすがにいつもの笑みは消えていた。柔和な微笑みは消え、ただ表情作りに思考と筋肉を使うのをやめただけのような、特に名称のない表情をしていた。

 そんな表情のまま、咥え煙草をゆらゆらと揺らし、ふーっと息を吐き出す。


「初めに教えておくと、無理矢理やるのは強姦、合意してやるのが和姦ね。だから例えば、どっかの神社で顔も名前も知らない男に押し倒されて突然犯されました、なんていうのは、まさしく強姦にあたるわけだよ」


 頭の中には、夏祭りの光景がフラッシュバックした。まさしく強姦だというその写真が、記憶の引き出しから乱暴に引っ張り出して眼前に叩きつけられたかのように、鮮明に。


「強姦は犯罪でしょ? でも和姦は犯罪じゃない。じゃあ強姦しちゃった後で和姦ってことにすればいいんじゃない? そのためにはどうすればいい? ――それでどこかの誰かが考えたのが、事後に、その女の子が笑顔でピースとかしてる写真を撮ること。ほら、例えばさ、女の子が普通にセックスした後にさ、『無理矢理された』って言えば全部強姦になるんだとしたら、女の子は簡単に男を嵌めることができちゃうでしょ? 女の子が強姦されたって言ってるからはい有罪、とはならないわけ。人間は嘘を吐くことができる生き物なんだから、どんな言葉でもそれには裏付けが必要なわけだよ」


 人間は嘘を吐くことができる。嘘を吐くことが、できるから――。


「そこで、だ。例えば三国ちゃんが俺に強姦されましたって警察に駆け込んだとするでしょ? そして警察が俺のところへやってきて、三国ちゃんが俺に強姦されましたって言ってますよと詰問するわけだ。そしたら俺は、三国ちゃんが裸でピースしてる写真を差し出すわけ。ごめんなさい、見てのとおり円満な恋人同士の和姦です、別れたがってた三国ちゃんが強姦ってことにして警察に駆け込みましたってね」

「の、せさん、待ってください、能勢さんは、一体何の話を……」

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