推しにおされて、すすむ恋
「はいっ!」
満面の笑みを浮かべた瞬間。
強い風が吹き抜ける。
遠くにいる三人は「わっ」と、紙を押さえたりスカートを押さえたりしていた。笑っちゃうのが、お姉ちゃんのスカートを押さえているのがリムチーってところ。
「おいステラ、お前、ちょっとは自分の身なりに気を遣えよ。リムチーが浮かばれないだろ」
「身なり?私が大事なのは、卒業動画のことをメモした紙の方だけど?」
「やっぱりステラはストイックだね、かっこいいよ!」
「リムチー、お前もちょっとはプライドを持て」
すっかり従者になったリムチ―を、憐みの目で見るヤタカさん。
ふと、こっちが気になったらしい。「おーい」と、私たちにむかって手を挙げた。
「もうチャイム鳴っちゃうね。皆と合流しようか、玲くん」
「……」
「玲くん?」
私たちが静かになる後ろで、「あー!」とお姉ちゃんの叫び声。空を指しているあたり、何かが飛ばされたらしい。
「大変!私たちも行こう!」
「……ゆの」
「ん? わぁ!」
名前で呼ばれた途端、目の間が真っ暗になる。
いや、正確には、ギリギリまで玲くんの顔が近づいていた。そして、どんどん差は縮まっていき――ちょん、と。唇に、柔らかいものが当たる。