空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 思わずぎゅっと目を瞑り、何も考えるなと自分に言い聞かせた。だけど、波の音と潮の匂いが、どうしても麗波の嘲笑を思い出させる。
 怖い――。
 目頭が熱くなり、涙が頬を伝った。

 何をしているんだ、これじゃダメじゃないか。自分を責め、乗れ、乗るんだと再び自分に言い聞かせる。
 だけど、そう思えば思うほど、涙だけが溢れ、体が動かなくなる。
 気持ちだけが焦り、何もできない。それで余計に涙が溢れ出す。

 するとその時、何かが私の肩に乗った。

「焦らなくて、いいんですよ」

 優しいぬくもり。爽やかな柑橘系の匂い。ごつごつとした、凌守さんの大きな手だ。
 彼は片足を船から足を引き上げ、私のすぐ隣に立っていた。
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