空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む

　私のためにせっかく朝から準備をしてくれていたのに、台無しにしてしまうなんて。
　自分を責めていると、ため息が零れそうになる。だけど、それでは彼に申し訳なくて、私はうつむいたまま口を開いた。

「海の近くは平気になったのに、船はやっぱりダメでした」

　私は、胸元のペンダントを、ぎゅっと握った。

「仕方ないですよ。船舶からの転落を経験してるんですから」

　彼の言葉に、違和感を覚えた。私は、落ちたわけじゃない。

「転落じゃ、ないですよ」
「え？」
「海に落とされたこのペンダントを追って、自ら海に飛び込んだんです。本当、何してるんだって話ですけど」

　言いながら、ペンダントを手から離した。ガーネットが揺れながら、胸元に収まる。

　思い出すと苦しいが、あれは自分の意思だ。
　それに今、船に乗れなかったのは、溺れるのが怖いという理由だけじゃない。