空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「海の悪魔の、娘……」

 凌守さんは麗波たちが去って行った方を見たまま、そう呟いた。

 私は凌守さんを止めようとして引っ張っていた裾から手を離し、俯いた。
 波の音だけが聞こえる。もう、彼に父のことを隠しておくのは無理だ。私はそっと、口を開いた。

「私の父、犯罪者なんです」

 私の声に凌守さんは息を呑む。私は彼から少し離れて座り直し、再び口を開いた。

「死亡後に、送検されました。父は、船を火災に追いやり沈めた、〝海の悪魔〟なんです」

 凌守さんの顔を見ることはできず、私は俯いたまま言った。

「ご存知ですか? 十二年前の、御船伊重工の貨物船のボイラー爆発事故」

 凌守さんは何も言わない。だから私はそのまま続けた。

「海が大好きで、海を股にかける機関士の父が私の誇りでした。それなのに……父は、違った。父がきちんと管理していたら、爆発事故は起きなかった。船が海に沈むことも、父が命を落とすこともなかった」

 ちらりと彼を見る。
 凌守さんは私の言葉を、海を見つめて聞いていた。その顔は真剣で、険しい。きっと、怒っているのだろう。
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