人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 キメの歌詞に差し掛かる直前、わたしは自分が持っていたマイクを彼の口元に近づけた。
 すると、その意を受け取った彼は左手で耳を押さえて、右手でスティック代わりのマイクを突き出し、『お前のすべてぇ』と叫ぶように歌った。
 完全にアイ高野になり切っていた。
 わたしは対抗するように、ザ・モップスの『朝まで待てない』と『たどりついたらいつも雨ふり』を続けて歌った。
アフロヘアの鈴木ヒロミツの真似はできなかったが、それでも雰囲気は出せたと思った。

「これは外せないだろ」
 彼が歌い出したのは、ザ・ジャガーズの『君に会いたい』だった。
 続けて『キサナドゥーの伝説』が始まった。
 ミリタリー・ルックのヴォーカリスト、岡本信(しん)の鼻にかかったような声を完璧に真似ていた。
 わたしは思わず唸ってしまったが、負けるわけにはいかなかった。
 持ち歌はまだ残してあるのだ。
 ザ・ゴールデン・カップスの『長い髪の少女』とヴィレッジ・シンガーズの『亜麻色の髪の乙女』
 マモル・マヌーと清水道夫になり切って歌い切った。
 すると、彼が意外な選曲をした。
 PYG(ピッグ)の曲を歌い始めたのだ。
 これには驚いた。
 伝説のバンドがここで出てくるとは思わなかった。
 PYG、それは日本初のスーパーグループ。
 ザ・タイガースとザ・テンプターズとザ・スパイダースが合体したモンスターバンド。
 人気を二分したジュリーとショーケンがダブル・リード・ヴォーカルを務めた奇跡のバンド。
 しかし、数枚のシングルとアルバムを出して自然消滅した短命バンド。
 それでも、記憶に残る名曲を残した忘れがたいバンド。
 それが今夜彼の歌声で蘇ったのだ。
 ビートの効いた『自由に歩いて愛して』、そして、壮大なスケールを誇る『花・太陽・雨』
 わたしは感涙に(むせ)ぶ思いで聴いた。
 
 歌い終わった彼が目配せをした。
「そろそろ〆るか」
 わたしは思い切り頷いた。
 〆の曲は言わずもがなで決まっていた。
 あの名曲だ。
 ジャッキー吉川とブルーコメッツの『ブルー・シャトー』
 1番は正式な歌詞で歌い、2番は、あの有名な替え歌を肩を組んで歌った。


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