人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 気づいたら終電の時間が迫っていた。
 慌ててカラオケ店を飛び出した。
 駅の改札口で彼を見送ると、階段を上る手前で振り向いた。
 その顔は何か吹っ切れたような感じがした。
 それでなんかほっとした。
 すると、彼の口が動いた。
 しかし、聞こえなかった。
〈なに?〉というふうに両耳に手を当てると、また口が動いた。
 しかし今度も聞こえなかった。
 それでも口の動きで言っていることがわかったような気がした。「もう一度」
 耳から手を離して頷くと、彼は手を上げて階段を上って行った。
 その背中は萎れていなかった。
 
 彼の背中が視界から消えた時、妻の顔が浮かんできた。
 その顔に向かって、彼と同じ言葉を呟いた。
 そして、踵を返して家路を急いだ。
 歩きながら、グループサウンズ卒業生が生んだもう一つの名曲を口ずさんだ。
『わが良き友よ』
 かまやつひろしとのデュエットが人気(ひとけ)のない深夜の町にこだました。


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