バツイチナースですが、私を嫌っていた救急医がなぜか溺愛してきます
それからの日々、香耶の心が落ちつくことはなかった。
洸太郎は契約結婚の相手だから香耶を無視するのかと思えば、時おり離れにやってくる。
恵子の様子を確認しにきたと言いながら、香耶に「もっと愛想よくしろ」とか「それでも看護師か」と暴言を吐くのだ。
恋人との仲を裂いた元凶として、香耶に八つ当たりしているとしか思えない。
それに恵子のリハビリをかねて庭の散歩をしていると、ふいに洸太郎の視線を感じたこともあった。
屋敷の中だけでおとなしく暮らしているというのに、監視するかのように遠くから香耶をじっと見つめていた。
だんだん香耶は男性の視線が怖くなった。
外部との接触もないし恵子以外の人と話すこともないから、人としゃべろうと思うと緊張してしまう。
香耶は、古泉製薬の危機を救ってくれた太田家に文句を言うつもりはない。
恵子の看護をするのは苦にならないし、これまで十分に世話を受けていなかった恵子からは感謝されるくらいだ。
恵子のため渡されたお金は、最終的には税理士が管理するから間違いないように家計簿をつけて管理している。
生活費はギリギリで、香耶自身は学生時代にアルバイトで貯めていたものを少しずつ使っていた。
それがゼロになる日が恐ろしかった。
その頃は精神的、経済的なハラスメントを受けているとは思わなかったし、考えもしなかった。
ただ心身ともにすり減っていき、香耶はいつの間にか周囲が見えなくなっていた。