バツイチナースですが、私を嫌っていた救急医がなぜか溺愛してきます



「今は、これからの生活のことで精一杯で」

香耶の戸惑った表情を見て、拓翔はわかったというように頷いた。

「拓翔さん」

「君が仕事を優先させたいなら、俺はこれからもアプローチを続けるだけだ」

香耶の気持ちも迷いも、全部を大きな心で受け止めてくれたのだ。
「覚悟しといて」と目の前で笑ってくれるから、香耶の心は軽くなる。

拓翔のそばにずっといたいなら、今の自分ではダメなのだ。
支えてもらって、それに甘えてしまうだけの未来は迎えたくない。

「待っていてくださるんですか」
「もちろんだ」

拓翔が手を差し出してきた。
そこに向かって伸ばした香耶の細い手は、ギュッと拓翔に握られる。
そのまま強く弾き寄せられて、香耶は拓翔の腕の中に閉じ込められた。

「あっ」

いきなり拓翔の心臓の鼓動が聞こえてくる。規則正しく脈打つ、力強い音だ。
だが香耶はその腕から逃れてしまった。

拓翔への想いより、驚きの方が勝ってしまったのだ。

「ご、ごめんなさい」

拓翔から一歩離れて、香耶は謝った。

「いや、急にすまなかった」
「いいえ、いいえ、私こそ、ごめんなさい」

取り乱している香耶を見て、拓翔は少し驚いたようだ。
あなたが悪いのではないと伝えたくて、香耶は必死に首を横に振る。

「おやすみなさい」

それだけ言うのがやっとだった。
香耶は拓翔から逃げるように、自分にあてがわれている部屋に戻った。

(どうして)

ベッドに座ったまま、香耶はギュッと自分の腕を抱きかかえた。
拓翔の腕は恋しいのに、どうしても身を引いてしまったのだろう。
まるで体と心がバラバラになったように感じて、小刻みに震えていた。





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