メガネを外したその先に
俺の言葉に対して、二倍三倍くらいの言葉で返してくる彼女の表情はあまりにも幸せに満ち溢れている。


子供たちの人生を少しでも豊かにできるような手助けをしたいと思って、教師になった。

だから、元教え子たちがこうして人生の岐路に立つ度に報告や相談に来てくれることは本望だ。


ふと、俺のテリトリーに遠慮なく踏み込んでくる彼女が長谷川の姿と重なる。

いつしか彼女と同じように結婚報告に来る長谷川を想像すると、胸の奥に蟠りを覚えて必死に掻き消す。


「…で、先生はまだ結婚しないの?」


自分の話をある程度終え満足した彼女が、俺の左手を手に取って大きなため息を吐く。
< 156 / 213 >

この作品をシェア

pagetop