メガネを外したその先に
私の歩幅に合わせてくれて、私側へ傘を大きく傾けてくれる先生はとても優しい。


“相合い傘だ”って言おうとした口を結ぶ。

雨の音と水溜まりを跳ねる車の音だけが響く空間がいつもよりも特別で、その空気を壊すのが勿体無く感じたから無駄口は叩かなかった。


触れそうで触れられない絶妙な距離。

絶対に踏み込ませてくれないその距離は、切ないけれど先生らしくてそれも好きだった。


ほんの少し、歩くスピードを落としてみる。

気付かれていたかもしれないけれど、それに対して先生は何も言わない。


ずっと駅になんて着かなければいいのにって、そう思いながら歩いた道のりを、私は雨が降るたびに今でも鮮明に思い出すんだ。
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