冷血硬派な公安警察の庇護欲が激愛に変わるとき~燃え上がる熱情に抗えない~
商業ビルの一階に入っている名店で葵の少ない稼ぎでは厳しい値段設定だが、毎月の食事会で相手が必ずご馳走してくれるから絶品な寿司を楽しめた。

引き戸を開けると、「いらっしゃい」と威勢のいい声がした。

「加賀見(かがみ)さん、先に着いてますよ」

彼と食事をする際はこの店が多いので、すっかり常連客である。

ねじり鉢巻きの店主が奥の通路を指さし、会釈した葵はカウンターとテーブル席が並んだ店内を奥へ進んだ。

小上がりの座敷が四つ並んでいて、手前の襖が半分開いている。

座卓に向かっている男性と視線が合った。

加賀見大和(かがみやまと)。葵より十歳年上の三十六歳で、まとう雰囲気は大人っぽく落ち着いている。

日本トップの国立大学を卒業後に警視庁に入り、刑事部で数年勤めてから所轄の警察署長を経験し、四年前に古巣に戻ったそうだ。

現在の階級は警視正で、キャリア組のため出世が早い。

「葵」

心に響くようなバリトンボイスで名前を呼ばれた。

たったそれだけで鼓動が跳ねたが、平静を装って片手を上げ座敷に上がる。

(嬉しそうな顔をしたら、気持ちに気づかれそう)

座椅子に向かい合って座ると、わざと興味の薄そうな顔で問いかける。

「大和さん、今日は仕事なかったの?」

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