冷血硬派な公安警察の庇護欲が激愛に変わるとき~燃え上がる熱情に抗えない~
「弁当と野菜ジュースとチョコパイを届けさせる。待てるか?」

「うん」

無垢な笑顔を見せた天才ハッカーの部屋を出て、対策室に戻る。

時刻は二十時半。広い会議室には長机が三十ほど置かれ、十七人が残って仕事をしていた。

ひとりに藪のお使いを頼んでから、先ほどの部下に声をかけ、こちらにも名簿にあったゼブラという人物から先に調べるよう命じた。

「三十分、外出する」

そのあとは対策室を出て足早に階段を下り、外へ出た。

時間は惜しいがシャワーを浴びて着替えるために、庁舎からほど近い自宅に時々帰っている。

冷たい夜風にあたると少しの解放感を味わえ、気分転換にもなる。

自宅へと向かいながらビルの隙間に見えた月に向け、長い息を吐いた。

(葵は今頃、なにをしているだろう)

仕事中さえ葵の顔が浮かぶのだから、庁舎を出ると頭の隅に寄せるのはもう無理だ。

(たしか二課が多野元逮捕に動いていたな。今回もスクープを取れなかったと落ち込んでいるだろうか)

電話して慰めたい気持ちをこらえる。

(葵から離れないと)

今後、少しずつ距離を取り、遠くから見守るだけの存在になるつもりだった。

葵を愛しているからだ。

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