冷血硬派な公安警察の庇護欲が激愛に変わるとき~燃え上がる熱情に抗えない~
壁に貼られた手書きのメニューに目がいきそうになったが、食欲を抑えてまずはターゲットを捜した。

広くはない店内で、小上がりの席に安岐村がいた。

女性と向かい合って座っているのを見て、多野元を思い出す。

(また不倫?)

思わず眉根を寄せてしまったが、よく見ると女性は妻だ。

安岐村の立派な戸建ての自宅を確認に行った時、妻が玄関前を掃除していたので見覚えがあった。

その時のラフなスタイルと違い、今は着物姿で髪をきれいに結い上げ若々しく見えた。

ふたりの会話が聞こえる距離のテーブル席を選んで座る。

月見そばを注文し、携帯をいじるふりをしながら聞き耳を立てた。

「見ごたえのある公演だったのよ。親子の連獅子は期待以上で、あなたも一緒だともっとよかったのに」

「仕事だから仕方ないだろ。また今度な」

「官庁にお勤めの頃から仕事人間で、やっと退職したと思ったら再就職だなんて。いつになったら、あなたとゆっくりお出かけできるのかしら?」

妻はどうやら天下りに不満があるようだが、もっと夫と一緒にいたいという思いが伝わってきて仲のいい夫婦のようだ。

「文句は帰ってから聞くよ。それより今は誕生日を祝わせてくれ。六十一歳、おめでとう」

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