冷血硬派な公安警察の庇護欲が激愛に変わるとき~燃え上がる熱情に抗えない~
もちろん別人だが、仕事中も何度も頭に浮かんでしまう葵の顔をなんとか忘れようと努めている最中なので心臓に悪い。
(まだまだやることがある。仕事に集中しなければ)
対策室を出た大和は、ふたつ隣のドアをノックして開けた。
五台のパソコンに囲まれた中に細身の男がひとり、椅子にあぐらをかいて座っている。
二十歳になったばかりの顔にはまだ少年のような幼さがあり、髪はボサボサ。長袖トレーナーにジャージズボンを穿いて警察官らしくない風貌だ。
彼はサイバー犯罪捜査官の藪(やぶ)。
少年時代の遊びはハッキングで、何度も警察の世話になったという異色の経歴の持ち主だ。
『ホワイトハッカーにならないか? その力は正義のために使うべきだ』
そう言って警察に誘ったのは大和だった。
人付き合いが極端に苦手な藪のために、この専用部屋を用意している。
「加賀見さん、こんばんは」
「藪くん、こんばんは」
一時間前にも会ったが、入室するたび挨拶する彼に合わせて返事をし、横に並んで画面を覗く。
小さな数字やアルファベット、記号で埋め尽くされていて、大和でも意味は掴めない。
(天才は俺じゃなく、藪だ)
藪が細い指で、画面の中央を指す。
「すまないが説明してくれ」