またあなたに花束を
今までたくさん大人の気持ちを読み取ってきたから。今までたくさんの大人の顔色を伺ってきたから。でもその時はわからないふりをした。か弱くて、騙すための演技は上手な自分という偽りの鎧を身につけた。それで自分が強くなれるような気がしていた。
だからわざと相手を試すような挑発的なことを口にする。
「あ、図星つかれたから怒ってるの?」
煽るような顔でにっこり笑う。すると鋭い音が部屋中に響き渡る。一瞬何が起きたかわからなかった。咄嗟に私は頬を触り、睨むように上を見上げる。すると私を叩いたであろう女子は先程とは比べ物にならないほどの鬼の形相だった。この表情を見るに私が心の中で思っていたことと相手が思っていたことは一致していたらしい。
口の中が鉄の味で充満する。切れたのだろうか。そう思った直後口の横からなにかが垂れていくような感覚を感じ、そこでようやく自分の口から血が垂れているのだと気がつく。
「明日学校来んなよ」
しばらく沈黙が続いたあとそう言い残したのを合図とするように女子グループたちが教室を抜け出していく。
女子グループたちが出ていくとしばらくして私は女子トイレに駆け込む。そうして扉を閉めて立ち止まり先程叩かれたところをそっと撫でる。
「…」
触っても痛いのかどうか分からなかった。ふと鏡に視線をやると頬は赤く腫れ上がっていた。その真っ赤な頬に私の涙が伝う。何も悲しくないのに、何も痛みは感じないのに不思議と涙がこぼれおちていく。
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