熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 万感の想いを込めて、架純は理人に愛を捧げる。
 婚姻を約束した証を感じながら、理人が近づく気配を察した。やさしくそっと触れた唇に、架純は目を瞑る。
 理人は架純が相応しい場所で、綺麗に着飾ったところでプロポーズすべきだと言ったけれど、架純はこの場こそ相応しいと思った。医師である理人のいるこの場だからこそ。
 大丈夫。私には理人さんがついている。
 この人になら私の命を預けられる。


***


 やっと着飾ることなく本当の気持ちを伝えることができた。
 理人は架純にプロポーズをしたあと、自分の細胞の隅々に力が湧いてくるのを感じていた。きっとこの力はこれから先の難しい手術に立ち向かう、医師の力となり理人自身の勇気になる。
 彼女を守りたい、救いたい、という気持ちが、いつも理人の原点にあった。
 あの時以上の気持ちで、理人は架純の命を未来に繋ぎたいと願う。それを自分の培ってきた技術に託す決断がようやくできた。
 準備はしてきた。あとは屈することのない精神力で、医療チームを信じて、自分自身を信じることだけだ。
 大丈夫。君には俺がついている。
 愛しい君。俺は必ず君の命を救ってみせる。


***


 手術の当日は、緊急オペのときと違ってとても穏やかな気持ちだった。
 最後の一回になるかもしれないからという覚悟が備わっているというのもあるかもしれないけれど。それ以上に、理人に本心から素直に想いを伝えられたからだと思う。
 今の架純を支えているのは希望だ。
 理人と共に生きる未来を拓きたいという活力が魂にしっかりと宿っている。
 もう、怯えたり諦めたりしたくない。人魚姫のように泡になって消えたいなんて思わない。自分のためじゃなくて彼のためにも生きたいと。
 それが理人にも伝わってくれたのかもしれない。彼もまたこの間の緊急手術の時と違い、ひとまわり頼もしい医師の顔を見せてくれていた。
 きっと大丈夫。
 そんな希望の光が内側から煌めいていくのを感じていた。
 ――長い、長い、旅をするように、けれど、一瞬のときのように。
 終わりは少しずつ近づいてくる。
 次に目を覚ましたときには、理人の汗だくになった水も滴るいい男……最高に素敵な医師の彼が、架純の名前を呼んでくれた。
「よくがんばった。もう大丈夫だ」
「……先生も、よくがんばりました」
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