熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「ならば本音を言うよ。俺はあのとき彼だけじゃなくて彼が君のために作った花束にも嫉妬した。今も、そのブーケが神聖な幸福の証として贈られたものだとしても……羨ましい才能だと思う」
 理人ほどの天才といわれる医師でもそんなふうに感じることがあるのかと架純は驚かされる。彼の性分はやはりストイックなのだろう。
 でも多分それだけではなくて――。
「君を幸せにする術を知っている人間は、自分ひとりでありたいと、傲慢なことを考えていたことに気付かされたんだ。君を笑顔にするのも、俺ひとりが独占したいと思った。俺だけが君をずっと見ていたくて、今までもずっとそうしていたんだと誇示したかったのかもしれない。今も、君の心を奪うのは俺ひとりであってほしいと思ってる」
 祭壇の前に立ち、理人が懺悔するように架純の目をまっすぐに見て言った。でもそれは架純にとっては嬉しすぎるほどに重たい愛の告白だった。
 そんなに理人が想っていてくれたということが架純にはもったいないとさえ思う。
 黙って理人の一言ずつに耳を澄ませていると、彼は再び架純の持っているブーケに目を止めた。
「それとは別に、彼には感謝をしてる。俺が傍にいられなかった空白の時間、君の心に寄り添ってくれた相手なんだろう。それに、実際に彼は、君の命を救ったひとりなんだ。あのとき……誰もいないところで君が倒れていたら間に合わなかったかもしれない。君が友達のところにお見舞いに行った。そして彼がすぐに呼んでくれたから助かったんだ。彼は救世主といっていい」
 当時のことがよぎったのか、理人は一瞬だけ顔を硬くしたあとその表情をほっと緩ませた。架純もまた頬を綻ばせる。
「それを聞いたら、きっとハルが喜ぶわ」
「恩返しというわけではないが、医師として彼のことも必ず俺が助ける、そのつもりで挑んだ」
 架純は頷く。
 最後の手術の前にハルに会ったとき、ハルも架純と同じ病を患っていると知った。きっとハルはあんな場面を見て怖かったことだろう。そして架純の命が救われたことで彼にも勇気が出たかもしれない。この病には絶望だけが残されているわけじゃないということを。 
 そしてハルは助かった。今彼はリハビリをしている。架純のあとに続いて、もっと元気になるように。
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