熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「ハッピーバースデーなカップルみたら、なんか幸せのおすそわけもらった気分だな」
 ハルが愉しげに言ってメニューを開く。架純は彼らの様子に目を細めた。
「私は……自分がいつ死ぬかもわからないから、誕生日はお祝いするというよりも一つ乗り越えたんだっていう気持ちになる方が多かったかな」
 ほとんど独り言だが、思わずといったふうに架純は呟く。
 するとハルが拗ねたような顔をする。
「なんだよ。それじゃあつまらないじゃん。もっと喜びなよ。その、好きな人にお祝いしてもらいたいとかないの?」
「私の場合は……今日まで生きられたっていう、安堵の気持ちの方が大きかったから」
「スミレは大丈夫だよ。きっと長生きする」
「そうかな」
「うん」
「あの、聞いても大丈夫かな。ひょっとしてハルも十和田総合病院に通っているの?」
 いくつもの点滴の跡や、ひょろっとした細い腕に気をとられ、架純はおずおずと尋ねる。
「まあ、ちょっとね。過去に入院してたことがある」
「そう、なんだ」
「スミレもひょっとしたらって感じてた。まあ、大きい病院で有名なところっていったらここだもんね」
「うん……」
「お互いにいつでもスイーツを満喫できるように、長生きしよう」
「うん」
 疾患のことはプライバシーに関わる。お互いに暗黙の了解で口にしない。名前もニックネームのまま。ただ、せっかく会えたんだから明るい話がしたい。そういう彼の提案に架純も頷いた。
 それから二人は冷たいルイボスティーで乾杯をしてスイーツを堪能し、初めてのオフ会は今までのやりとりの振り返り会みたいな形で楽しく賑わった。
 二時間ちょっとくらいだろうか。名残惜しいが彼のバイトの時間がやってくるらしく、帰りに花屋に寄っていってといわれて、架純はハルのバイト先を訪れた。
 店先には色とりどりの花が咲きこぼれ、店内にも様々な商品が並んでいる。花壇に飾れるポットやバンギング型の入れ物に寄せられた鉢植え、アレンジメントされた花籠、そして花束にするための色々な生花たち。
 少し待っていて、とハルに言われて架純は店内を見てまわっていた。
 歩くたびに花の香りがふわりと鼻孔をくすぐる。それはたしかにハルがまとっていた香りと似ているように思えた。
「はい。スミレの花にわさっとカスミ草を添えたシンプルな花束だけど。出会えた記念と……誕生日のお祝いに」
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