熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 まったく話が通じていなかった。
 あたりまえだ。理人にはハルのことを教えたことはなかった。
「えあ、えっと、ハルはだいぶ前にチャットで知り合った友達のことなのだけれど、色々相談にのってもらったりしていて、いつか会えたらいいなって思ってて。今日それが実現したの。私、友達なんてほとんどいないから嬉しくて!」
 架純は普段の自分を忘れて饒舌になってしまっていることに気付いてはいたけれど、嬉しさに胸が弾んでお喋りを止められなかった。
「そっか。よかったな。たしか……背丈が長めの硝子の花瓶がうちにあったはずだ」
 そう言い、理人がちょうどいいサイズの花瓶を持ってきてくれた。花束をひとまずそのまま崩れないように挿し込んでおくことにした。
「ありがとう。理人さん」
「ずいぶんご機嫌だね。君のそういう姿を見ていると、俺の方までなんか元気になるよ」
 理人に話を聞いてもらえるのが嬉しくて、彼に甘えてもっと話をしたくなってしまった。
「実は、私、ハルは女の子だと思っていたから、男の子だったことにびっくりして……」
「え?」
「彼、病院の近くのお花屋さんでバイトをしているんですって。それで、これはハルが私の誕生日にって選んでくれたの」
「誕生日。そう……君たちはどこで会ったの?」
「近所のファミレスで。そこで食べたパフェもとっても美味しかった」
「そう。他の男と、誕生日に、ね」
 理人の表情がだんだん強張っていく。
「もしかして君の好きになりそうな人ってその彼のことだった?」
「え、まさか。違うわ。ハルは友達よ」
「友達……ね」
 そう呟くと、理人は架純の頬にそっと手を伸ばした。苦しそうに見つめてくる彼に、架純は当惑する。さっき嬉しそうにしていてくれたのに。
「あ、あの……理人さん?」
「さっきからはしゃいでいる無邪気な君はかわいい。俺としても、素直に喜んであげたい……けど、妻が、他の男とデートをしたと知って、夫である俺がどんな気持ちになるか、君は知っている?」
「……あ」
 架純はそのときようやく我に返った。
 理人の主張はもっともだった。妻が自分の誕生日に他の男と食事をしていたというのは夫にしてみれば浮気以外のなにものでもないだろう。
 実際はハルは友達で架純にそのつもりがなかったとしても、理人にとってはそう捉えても仕方ないことなのだ。
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