熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「いや。きっと彼女も喜んで返事をすると思う。君の方からも伝えてやってほしい。俺はぜひそうしてほしいと思ってる」
「やった。ありがとうございます」
 陽樹は嬉しそうに声を弾ませた。彼が年齢よりも少し幼い雰囲気があるのは、きっと自分自身の迷いが時間を止めていたせいもあるのかもしれない。
 動き出せないまま時限装置の爆弾を抱えたロボットの自分。その鎧を脱ごうと必死に鼓舞するように自分の元気を演じていた部分があるかもしれない。
 しかし彼は踏み出した。次の季節に会える花の季節を夢見たくて。生きる目標を見つけた。そのきっかけを与えた存在が架純であることが理人にとっても誇らしい。
 そして理人は医師としてできることをなんとかやってみせようと、逆に彼らに力をもらったことにも気付かされる。
 脱力した指先に再び血が通い、神経がめぐらされていくのを理人は感じていた。
 自分は医師だ。神様ではない。血の通った人間だからこそ、同じように血の通う人間を助けたいと願う者。そして、愛する者を全力で救いたいと情熱を灯す者だ。
「はやく戻りなさい。ここは少し冷える場所だ。それに、看護師があわてて君を探しにまわらなければならなくなる」
「そうします。怒られて出禁にされたらスミレに言いにいけなくなっちゃうんで」
 それじゃあ、と陽樹は笑顔を残して病室の方へと戻って行った。
「……俺の方こそ、スミレを助けてくれてありがとう。君は、命の恩人だ」
 理人は陽樹の背中に言葉をかけて、ぐっと掌を握り締めた。彼の命もまた救わねばならない、そんな強い意思を胸に灯していた。


■8 一生に一度の、特別なプロポーズ


 夏真っ盛りの七月下旬。
 病院の外の庭には黄色のひまわりが青々とした空を仰いでいた。
 あれからひと月ほど経過し、さらにひと月後に行われる予定の、手術前の入院が決まった日――。
 架純は自分の個室から少し離れた六人部屋の病室にいるハルの元へ顔を出し、改めてこの間のお礼を伝えた。
「せっかくの花束……渡しそびれてごめんね」
 架純が倒れたのは、ハルに花束を渡そうとしていた時だった。朧げではあるものの目の前で花びらが散ってしまったことを悲しく思っていた。
「そんなの気にしないでいいよ。スミレが無事で……大変だっただろうけど、助かって本当によかった」
「うん」
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